2020年12月26日 本日の鹿児島県北西部は晴れ。

そろそろ大掃除しなきゃなぁ・・・めんどくさいなぁ。
そんな昼下がりに ふと思い出した本の話など。



「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)」

かなり前に読んで、あまりの面白さにのけぞったのがこの本でした。
ジョン・ハンター氏とは「ジキル博士とハイド氏」のモデルとしてご存知の方も多いかもしれませんが、近代外科医学に明確なエビデンスを与え、その進化と変革の起点となった人物でもあります。しかし、そんなに偉大な人にも関わらず、あまり表舞台に華々しく紹介されることが無いのは、まさに「ハイド氏」の部分が小説を越えて奇異に満ちているからかもしれません。

本の内容
内容はタイトルの通り、ジョン・ハンター氏の生涯ですが、描かれる世界としては、外科医学の黎明期の話です。時代は18世紀後半のイギリス。ネタバレし過ぎてもアレなので、簡単に紹介します。

内容の中核部分

「さして才能に恵まれたようには見えなかったジョンが、兄の仕事を手伝う中で「人体解剖」に関する才能を開花させてゆきます。当時のイギリスでは毎週のように医学者によって行われる「解剖教室」で使用する死体の確保の為に、死体争奪戦が苛烈であり、ジョンは、研究者という表の顔の裏で、「死体調達組織の元締め」として暗躍します。とあるキッカケで、妊婦のお腹の中の子どもの成長過程についての興味を持ったジョンは、妊娠初期~臨月までの各段階の死体をかき集めて解剖し、その研究結果についてイラスト付きで公開し、世界から賞賛され、医学界のスターへと駆け上がりました。」

読み所
私個人がこの本を読んだ時に思った事は、「既知の情報に懐疑的な態度でしか新しい歴史は生まれないんだなぁ」という事。ジョン・ハンター氏は徹底的に既存の知識について懐疑的な態度を貫きました。ダーウィンが進化論を発表する半世紀も前に、サルから人間に至る段階的な頭蓋骨のコレクションを陳列していたという所を見ても経験的知見の大切さを感じます。全編を通してにじみ出る「猟奇性と知性との共存による違和感、現代社会と当時の死体に対する価値観のギャップ」こそがこの本の醍醐味だと感じますので是非、タイムスリップしてみて下さい。

雑感
多分4年か5年前に読んだと思うのですが、内容が結構頭に入っているので良書の一つだと思います。興味を持たれた方は是非一読されてはいかかでしょうか。文字としてはグロイ描写も多いので、想像力の豊かすぎる人には向かないかもしれませんが、今の医学が、どれほどの死体の上に成り立っているのかをリアルに感じる事ができるようになりますし、現代医学は「猟奇的解剖バカ」の手によって大変革をして現代に至ることを知ることで、実験や観察の在り方に対する考え方も変わるかもしれませんよ。
とにかく面白い本でした。